DNAと個人と社会

  • 2017.04.19 Wednesday
  • 12:28

安藤寿康著『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)

 

この本はPodcast「武田鉄矢:今朝の三枚おろし」で知った。内容は、著者も”はじめに”の中で書いているように、誰もがうすうす感じていることを著者がエビデンス(双生児法と確率・統計による検証)をあげて明らかにしている。

※双生児法とは、身体・心理・行動発達に対する遺伝と環境の要因を明らかにするために、双生児を用いる古典的な方法である。遺伝子を100%共有する一卵性双生児の相関と約50%共有する二卵性双生児の相関とを、環境変化のもとで比較することで、その発達形質の遺伝性を見る。

 

人の知能を含む心的形質は遺伝するというものなのだが、このことは誰もが何となく気がついていたことではないだろうか。顔や、体格が親に似るのだから知能、学力だってそうなのだろうと思うのが自然だ。しかしながら、なぜか運動も学力も努力で達成できるものだと思ってきた(思わされてきた)。それが社会的に都合がよく、また事実を上手に説明する手法が欠けていたということもその理由の一つなのかもしれない。

 

社会が成熟?してきた今、その準備が整ってきたということなのだろうか。しかし、社会の成熟というのもまた眉唾という気がしないでもない。しかしながら、統計的手法が理論的、技法的に洗練されてきたというのは間違いないような気がする。これにより今までスッキリしなかった現象の解説が可能になったということはあるだろう。

 

問題は我々一般人である。専門家が駆使する確率・統計の表現に不慣れなのである。個人的に確率・統計に興味あるのだが、それでもその意味することを理解するのは難しいと感じている。特に確率・統計に関心のない一般の人々にとって、著者の解説はチンプンカンプンか、もしくは思いっきり勘違いされるかのどちらかではないかと思ってしまう。

 

もっとも、最近は天気予報がパーセント(確率)で表示されるのが常で、確率的な表現に多少は馴染んできていると言えなくもない。予報の正確さが増しているとは言え、思いっきり予報が外れることがあることを肌身に感じている。このことが重要なのである。パーセント(確率)と異なる事象が実際に起きるというのが「自然・社会現象」なのである。

 

著者は、形質の種別で異なるとしながらも、人の心的形質の遺伝率は凡そ50%程度だと言う。しかしながら、この50%という数値は集団レベルのものであり、個人にそのまま当てはまるものではないと補足する。個人でみればバラツキがあるが、集団でみれば平均値に集約される。この辺りが確率・統計の分かりにくところである。

 

しかしながら、知能、学力などの心的形質が統計的に半分程度は遺伝的なものであることを知ることは重要であろう。ここは表現が難しいのだが、無駄?な努力を回避できるかもしれないからである。心的形質はいま認知できているものも含め数多く存在すると考えられる。このことを前提に、著者はすべての人が同じ方向に向かって同じ努力をすることに疑問を呈しているのである。

 

本書は6章からなり、「第5章 あるべき教育の形」と「第6章 遺伝を受け入れた社会」は著者の革新的教育論となっている。教育学博士である著者の主旨はこの二つの章にあるのではないかと思われる。本書の刺激的なタイトル「日本人が知らない遺伝の真実」は、著者が ”あとがき” 書いているように、営業的事情により付けられたのではないかと推察する。

 

著者の本旨は、一人ひとりが遺伝で引き継がれた様々な心的形質を活かせる教育、そして社会をどのように創り上げるのかということにある。そのためには、教育が往々にして個人間の格差を拡大させる方向に働くこと、そして最終的に遺伝的な差を顕在化させることを知ることが重要だとしている。

 

 人間が持っている能力は多種多様なのですが、社会的に特定の能力がフォーカスされ、そこに教育資源が投入されることで、遺伝的な差がより顕在化していくことになったのです。

 その結果、ほとんどの人間が不当な頑張りを強制されるようになりました。

 

著者の「学校は売春宿である」説には初めギクッとした。人間の三大欲求としてあげられるのが、食欲、性欲、そして三つ目に何を持ってくるかということになるのだが、著者は知識欲をあげる。そして、今の学校制度は知識欲を充足させるためにすべての人を「売春宿」に閉じ込めるようなものだと言う。ここまでズバッと表現することには驚くが、しかしその主張には一理ある。

 

このような状況を踏まえ、著者は二つの教育改革を提唱する。いまの教育制度の大枠はそのままにして運用を変える小さな教育改革と、働き方をも含めた大きな教育改革である。

 

 12歳頃に形を取り始めた「その人らしさ」は、教育を始めとした環境の影響を受けて増幅され、能力として発言していく。どのように能力が伸びていくかは、その人が本来持っていた遺伝的な素養によるところが大きい。

 

著者は、12歳以降の教育は社会とつながった本物を学べるものでなければならないとし、教師ではなく「本物の知識」を体現できる社会人に教えを乞うことの重要性を説く。さらに大きな教育改革として、社会の「キッザニア化」と「能力検定テストの創設」をあげる。

 

「生涯現役」という言葉があるが、著者は「学びの生涯現役」を達成できる社会を目指そうとしているのではないか。結果として、このことが日本人、そして日本社会に幸せをもたらすと考えているのではなかろうか。このことについては、じぶんも強いシンパシーを覚える。学び直しの必要性を考えてみたいと思ったことが、当ブログを始めた動機の一つだったのだから。

 

 あらゆる能力が遺伝することをきちんと認め、多彩な才能を評価する文化をみなでつくり上げていく。小規模なコミュニティを維持、活性化できる社会的な制度をつくる。そうした取り組みによって、遺伝的な素質が発現する可能性は大きく高まります。

 素質を高められる環境を探求し、適応し、生存する。そして旅をしながら私たちは「本当に自分」になっていくののです。

 「かわいい子には旅をさせよ」といいますが、それは大人も同じ。私たちはみな死ぬまで旅をし続けるのです。

 

著者の提案は傾聴に値する。

著者は、人間は年齢を重ね、さまざまな環境にさらされ、遺伝的な素質が引き出されて、本来の自分自身になっていくようすを行動遺伝学は示唆していると語る。じぶんも今年で七十になる我が身をふり返り、残された余生を生ききるには、との想いが廻っている。

 


 

日本人が知らない遺伝の真実(kindle版)

2016年12月 発行(SBクリエイティブ:amazon)

 

著者 安藤寿康

1958年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。現在、慶應義塾大学文学部教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学。主に双生児法による研究により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティに及ぼす研究を行っている。著書に『遺伝子の不都合な真実』、『遺伝マインド』、『心はどのように遺伝するか』など。

 

 

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