パターン・ランゲージという言語のかたち

  • 2017.04.06 Thursday
  • 21:48

井庭嵩著・編集『パターン・ランゲージ:想像的な未来を創るための言語』( 慶應義塾大学出版会 )

 

本書は3年前に購入したままになっていた本である。当時iTunes_Uで、慶應義塾大学SFCの一部の講座が視聴できた。いろいろと事情があるのだろうが、現在はほどんど更新されていない状態だ。大変残念に思う。SFCの興味あるコンテンツの一つが井庭嵩氏の「パターン・ランゲージ」の講義だった。井庭嵩氏は慶應義塾大学SFC総合政策学部准教授で「パターン・ランゲージ」をテーマとした講義を担当していた(いる)。

 

人間が創出するものの中で、言葉(言語)、音楽、絵ほど興味深いものはない。これらを無くしては他のすべての創作も無に帰するのではないかと思えるほどだ。特に言葉(言語)の意味はとてつもなく大きい。もしじぶんが言葉を使えなかったとしたらという仮定すら想像できない。しかも、視聴覚を前提としない言語活動が在ることをヘレン・ケラーは証明している。実に不思議である。じぶんの人生を考えてみても、”人生=言語活動” と言っても過言ではない。

 

地デジ番組に縁遠くなり、家ではよくアメリカのネット・ニュースを見る(流している)。困るのは英語なので話されている内容がほとんど分からないことである。しかし、それでは日本語のニュースはどうかと考えれば、英語とは違って分かった気になれるということである。今は、日本語と英語のニュースの違いは分かった気になれるか否かということではないかとすら思っている。

 

しかし、言葉(言語)にとってこの分かった気がすること(理解&誤解)が大きな意味を持つ。なぜなら、これで人、社会が活動を始めるからである。しかしながら、社会の複雑化が増すにつれ、自然言語のやり取りだけでは対応しきれなくなってきているのが現状ではないか、というのがじぶんの認識である。

 

個人的な見解だが、「パターン・ランゲージ」は、このような社会状況を背景に自然言語の再定義の必要性を問うているのではないかと推測する。

 

 パターン・ランゲージは、1970年代に建築の分野で、クリストファー・アレグザンダーという建築家によって考案された。彼は、住民参加型の町づくり・住まいづくりを実現するためには、建築家が持っているデザイン(設計)の知を、住民と共有しなければならないと考えた。そこで、質感があり、美しく、いきいきとした町や建物を生み出すための秘訣を、253の「パターン」として記述し、それらを関係づけ体系化した「パターン・ランゲージ」を生み出した。

 

後に「パターン・ランゲージ」の手法はソフトウェア・デザインの分野に応用されるようになった。著者等はさらに、「パターン・ランゲージ」を人間の行為そのもの、学び、教育、プレゼンテーション、コラボレーション、組織変革、政策デザイン等にまで進化させようと試みてきた。

 

パターン・ランゲージでは、デザインにおける多様な経験則をパターンという単位にまとめる。パターンには、デザインにおける「問題」と、その「解決」の発想が一対となって記述され、それに名前が付けられる。パターン・ランゲージの利用者は、自らの状況に応じてパターンを選び、そこに記述されている抽象的な解決方法を、自分なりに具体化して実践する。

参考:井庭研究室「ラーニング・パターン

 

本書では、建築、情報、ソフトウェア、政策のプロである中埜博、江渡浩一郎、中西泰人、竹中平蔵、羽生田栄一との対談、鼎談で「パターン・ランゲージ」の活用について議論されている。しかし、本書の内容を実感を伴った理解まで達するのは困難だ。やはり何らかの実体験/実践が不可欠であり、読んで理解するというのは甚だ難しいという印象を持った。

 

しかながら、じぶんは、「問題」と「解決」の発想の一対の記述に名前がつくというパターンの形にずっと強い興味をもってきた。今、新聞、雑誌、TV等のマスメディアの中では、刺激的な短フレーズの言葉−キャッチコピー−が乱れ飛ぶ。CMはともかくとしても、社会的事象でその真偽などは二の次で心的インパクトのみが強調されるような見出しのあり方などを見聞きするにつけ、不安な想いにかられるのである。

 

せめて、社会的課題の解決にはもっと真摯に取り組んで欲しいと切実に願う。しかし、それには自然言語というツールだけでは力不足なのだろうと考える。新しい言語のかたち、「パターン・ランゲージ」のような新しい言語体系が必要なのだと思うのである。

 

日本の文学界には、5・7・5の17文字で千文字の随想に負けない表現力を有する俳句がある。社会活動にここまでの高尚さは不必要かもしれないが、現状ではあまりに低俗な表現が多すぎると思わざるをえない。そういう意味で、著者等の研究/活動に期待するところ大なのである。そして、これはこの国だけの問題だけではなく他の多くの国でも事情は同じであろうと考えられる。

 

関連投稿: やはり、経済は複雑系? (2013/04/11)

 


 

パターン・ランゲージ_創造的な未来をつくるための言語

2013年10月 慶應義塾大学出版会発行(amazon

 

著者 井庭 崇

慶應義塾大学総合政策学部准教授

1974年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。博士(政策・メディア)。千葉商科大学政策情報学部専任教員、マサチューセッツ工科大学素ローン経営大学院客員研究員等を経て、現職。

 

 

 

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< April 2017 >>

selected entries

categories

archives

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM