トランプ大統領は歴史的社会現象か

  • 2017.03.30 Thursday
  • 20:17

三浦瑠璃著『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮出版社)

 

2016年11月8日(アメリカ時間)、共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントンを下して大統領となった。これは世界中の専門家たちにとってびっくり仰天の出来事だったようだ。大方のマスコミの予想では、ヒラリー・クリントン優勢が当然のような報道になっていた。

 

しかしながら、中には ”トランプは侮れない” と読んでいた少数の専門家がいた。本書の著者・三浦瑠璃氏もその一人だ。ほとんど地デジを見ないので、じぶんが著者を知ったのはネット上の映像コンテンツだったと思う。おじさんたちの中で小気味よい論理展開をする人だなというのが第一印象だった。逆に言うと、おじさんたちの論理は切れ味が悪いということだ。

 

この国も未だ男中心の社会だろう。故にどうしても、おじさんたちは色んなしがらみが多く「常識」に捕らわれやすくなるのだと思われる。しかもこの常識というやつが、普遍性よりは自分が在るコミュニティの土着性の方が強いので厄介なのである。そういう意味では、著者は初めから男たちの常識世界からフリーでいられたのかもしれない。これは著者のアドバンテージだ。

 

ドナルド・トランプという人は素人目にはとてもアクが強い人物に感じられる。それが実態なのか虚構なのかは分からない。著者も安易な結論を差し控えているようにも見える。トランプ氏は衝撃的な暴言?を吐くかと思えば、禁欲的なトランプ・ファミリーという側面を併せ持つ。

 

現地で直接取材をしている著者は、本書のまえがきで、トランプ氏に対する自分の考えが2016年3月のスーパーチューズデー前夜から変わっていないと表現する。多くのマスコミの評価とは反対に、トランプ候補は侮れないという印象を持ち続けたということだろう。

 

アメリカ事情に詳しい著者の解説が色んな切り口でなされているのだが、残念ながらじぶんにはそれらを一つのイメージに整理することはできない。じぶんが理解できた?のは、著者が今回のアメリカの大統領選を「トランプ現象」と称し、世界に波及しうる一つの社会現象として捉えようとしていることである。ある意味で、トランプ大統領は生まれるべきして生まれたという考えだ。


本書のタイトル『「トランプ時代」の新世界秩序』は、その著者の思いをそのまま表現しているのだろう。初めにアメリカ社会の変動があってトランプ大統領が誕生したのであって、トランプ大統領が誕生したがためにアメリカ社会に変動が起きようとしているのではない、という認識が一般的にが欠けているということだ。

 

アメリカは我々が想像する以上に複雑な社会構造を有している。共和党、民主党も簡単に二大政党と表現できるような状況にはない。今回の選挙で取りざたされた男と女、白人と非白人、エスタブリッシュメントとノンエスタブリッシュメントの対立、そして宗教対立までが混在する。さらに、最近はLGBTという記号も一般化し、男女の性差だけでは捉えきれないカオスな社会になってきている。

 

 人々の争いや対立を見据える国際政治学者は、とかく世界を悲観的に見る傾向があるのですが、正直言って、私自身は暗澹たる思いにかられています。世界がこのようなとば口に立ってしまったのは、トランプ氏一人のせいではまったくありません。アメリカは九十年代から十数年の間、自らの単極的な行動によって、世界の秩序をより自由で平和で民主主義的なものに作り変えようとしました。多くの失敗と混乱があったことは確かですが、そこに一定の理想があったことも事実です。世界はこうした試みが、歴史の中で「束の間」に存在した例外的な事象であったことを思い知らされることでしょう。

 

著者は近年の国際政治上で大きな影響力を持ってきた国・アメリカを上のように総括する。旧いアメリカが後退しシン・アメリカが現れる。その象徴がトランプ大統領ということだ。善かれ悪しかれ世界の多くの国がトランプ大統領(アメリカ)の対応をせまられることになる。

 

トランプ大統領はアメリカ・ファーストを唱えているが、著者はアメリカ経済が減速して日本にとって良いことは一つもないと語る。日米にとって、TPPに代わる東アジア経済圏の基本システムをデザインしうるか否かは重要な懸案事項だ。また安全保障では、著者は自分の国がどうありたいのかを前提に日米同盟を再定義することの必要性を説いている。

 

今、本当に議論されなければならない事柄を棚上げにして、三面記事的出来事?に揺れる現国会の状況を見るにつけ、著者の表現を借りれば暗澹たる思いにかられる。与党を全面的に支持できるわけではないが、野党とマスコミの幼稚な言動はあまりに酷過ぎる。現状では、本書で日本に突き付けられた課題は、悔しいがこの国にとって本当に難問であろうと考えざるを得ない。

 

関連投稿: ベビーブーマー大統領誕生 , Now! (2017/01/21)

 


 

「トランプ時代」の新世界秩序

2017年2月 発行(潮新書:amazon

 

著者 三浦瑠璃

国際政治学者。1980年神奈川県生まれ。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。専門は国際政治。現在、東京大学政策ビジョン研究センター講師。著書に『シビリアンの戦争』『日本に絶望している人のための政治入門』

 

 

 

 

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