記念艦「三笠」を訪問する

  • 2015.06.25 Thursday
  • 20:50
先週、息子たちが、私ども夫婦(二人とも6月生まれ)の誕生祝いを横浜の中華街でやってくれた。当日はそのまま横浜に一泊して、翌日、横須賀の三笠公園に向かった。30代の半ばに司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読み終えた頃から、機会があれば、記念艦「三笠」を訪れてみたいと思っていたのだが、やっと念願がかなった。

記念艦三笠
http://www.kinenkan-mikasa.or.jp/

東郷平八郎像を前にした「三笠」を目にしたとき、よく遺せたものだと感慨深かった。旧日本海軍の軍艦で、現在残っているのは「三笠」だけかもしれない。少し前、戦艦「武蔵」の生映像が話題になったが、「大和」も「武蔵」も今は深い海の底だ。

『坂の上の雲』は歴史小説だ。勿論、著者が豊富な取材と資料に基づいて書かれたものであるにしても、一人の作家が紡ぎだした物語であることには違いない。よって、史実と異なる表現があるかもしれない。と言うより、唯一絶対の史実(事実)などは想像し難く、人により資料の解読の仕方も異なるだろうし、特に人の心の中の話になると、歴史学者、作家などの想像力に頼るところが大なのは致し方がない。

宇宙から見える人工物は万里の長城だけだったという話は有名だが、人類の遺産として最後まで残るのは、ピラミッドなど自然の鉱物で作られたものだけかもしれないと思ったりする。しかし、少なくとも、歴史の遺産として残された人工物の存在のインパクトが大きいことは間違いない。「三笠」は本物の歴史遺産である。

「三笠」は明治35年、イギリスのヴィッカース造船所で竣工した。明治38年5月27日、28日の日本海海戦で旗艦を務め、ロシアのバルチック艦隊を撃破し、日露戦争を勝利に導いたという話はあまりにも有名だ。この勝利が他のアジア諸国ばかりではなく、西欧諸国にも強い影響を与えたことは歴史的事実である。

個人的には、好むと好まざるとに関わらず、国民の総意とも言うべき力が富国強兵という国の方針を支えたという事実に驚愕する。 『坂の上の雲』の冒頭の文「まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている」にあるように、西欧の列強に比べれば本当にひ弱な共同体であったに違いない。

先月は、世界遺産「富岡製糸場」を見てきた。今見ても斬新に見える木材とレンガを組み合わせた建物群には感心する。自動繰糸機は昭和62年の操業停止まで稼働していたという最新のものしか見ることが出来ないのは残念だが、この製糸場に始まった生糸の生産が国内に広がり、後に女工哀史に語られる劣悪な労働環境もありながら、数少ない外貨を稼ぐ製品として国を支えたことを思うと、現在の日本と比べ今昔の感がぬぐえない。

富岡製糸場
http://www.tomioka-silk.jp/hp/index.html


「三笠」を建造するのにどれだけの生糸を必要としたのだろう、と思うと気が遠くなる。日清・日露戦争を回避できなかったのかという問いに、じぶんは答えることができない。しなしながら、時の指導者たちの心情はまるで綱渡りを目の前にした者のようであったろうことは推測できる。バルチック艦隊との会戦に際し掲げられたZ旗はそんなことを物語っているような気がする。

元々Z旗は国際信号旗で固有の意味を持つが、アルファベット終わりの文字で ”後がない” の意味を込め、日本海軍は「皇国の興廃コノ一戦ニアリ、各員一層奮励努力セヨ」の信号旗とZ旗して使用した。

これは単なる檄文ではなく、日本軍幹部の本音だったのではないか。本当に国の存亡をかけた戦争だったのではないか。少なくとも当事者たちの深層心理はそうであったと推測する。

繰り返しになるが、じぶんに彼の戦争の正誤を判断することはできない。内心、このことは多数派ではないかと想像しているのだが、じぶんはこの明治期の国体と国民を理解する上で、司馬遼太郎著『坂の上の雲』によるところが大きい。前に記したように本書は歴史書ではなく小説である。作者の歴史観というバイアスがかかっているのは言うまでもない。

小説『坂の上の雲』とは異なる視点があることを前提にした上で、今、じぶんの明治期に対する歴史観を変えるつもりはない。しかし、その明治期の歴史観を無条件で肯定するつもりもない。この小さな国が明治期に開化を成し遂げ、紆余曲折の末に昭和の敗戦を迎えることになった。その原点が明治期にあったのかもしれないことを否定することはできないのである。

しかし、時代の変動期に、どの道を選択をするかというのは単純な正悪論で埒が明くものではないことも確かだ。かつて、それぞれの指導者の決断の背後にはそれ相応の覚悟があったはずである。この覚悟を伴わない決断にはそもそも意味がない。このことは時代が移っても変わることはない。

今、安保法案が世間を騒がせている。それぞれ支持論、反対論が声高に叫ばれている。しかし、ほとんどの国民は、戦争することには反対に決まっている。このことはこの法案の支持者も反対者も同じだろう。また、支持者が好戦家で反対者が平和愛好家ということでもない。このことは議論の大前提でなければならないだろう。

所詮、どっちの道を選んでも、良いとこ取りですむわけがない。どちらにしても、清濁併せ呑む覚悟がいるのである。「三笠」はそのことを教えてくれる。イフとして、日露戦争が無かった歴史、日本がロシアに敗れる歴史もあったろう。しかし、どの歴史にも別の艱難辛苦が待ち構えていたであろうと想像する。

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