まともな人

  • 2013.01.23 Wednesday
  • 21:04

解剖学者 養老孟司氏の著書に 『まともな人』(中公新書:amazon) という本がある。世間では色んな事が起きており、それに色んな人が関わっている。おそらく、著者自身も含めて、常識外れと思われている人の方が ”まとも” なこともあるよ、と言っているのではないかと思う。

北海道に植松努という人がいる。初めて植松氏を知ったのは、2010年、TBSラジオ番組 「サイエンストーク」(既に放送終了となっている) の podcast版 を聞いてからである。植松氏は北海道赤平市にある 「植松電機」 の経営者である。会社の業務内容が 「車両搭載型低電圧電磁石システム設計・製作・販売」 なのだが、なぜかロケットの開発をやっているという不思議な会社であり経営者である。さらに、植松氏は、日本から 「どうせ無理」 という言葉を無くすことを目途に、全国で子どもを対象にしたロケット教室を精力的に開催している。このラジオ番組での熱い語り口に惹かれた。



昨年、植松努氏の著書を手に入れた。『NASAより宇宙に近い町工場 僕らのロケットが飛んだ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン:amazon)である。2009年出版なので、ラジオを聞く前に既に出版されており、2011年第8刷版がたまたま目に留まったことになる。この本は200頁なのだが、字数も少なく、文章が童話風でとても読みやすいのだが、中味はしっかりと味付けされており読み応えがある。

今回、この本を読んで感じたのは、植松努という人物こそ 「まともな人」 ではないのかという事である。著者の生き方は理解されにくいと思う。世の中の平均的な考え方ではないからである。学校でも、社会でも決して教わってこなかった。本書を読んでいると、著者がたんたんと語る言葉に 「そうは言ってもね」 と突っ込みを入れたくなる。それでは、 ”まとも” なのは著者なのか、世間なのか。

NASAより宇宙に近い町工場
僕は、宇宙開発はあることを実現するための手段だと考えています。
 それは 「どうせ無理」 という言葉をこの世からなくすことです。
 「どうせ無理」 というたったひとことで、多くの人が夢をあきらめてしまいます。本当に怖い言葉です。
 宇宙には月や銀河や星や、美しいものが無数にあります。そんな美しい宇宙ですが、簡単に行くことができないので、あきらめてしまいがちです。多くの人があきらめてしまう夢を、「そんなことないよ!」 と言って実現できれば、あきらめない人が一人でも増えるのではないかと思っているのです。


上文は、本書の中にある著者からのメッセージである。宇宙開発は、著者のそして会社の ミッション なのである。ビジネスではないと断言する。むしろ、ビジネスになることを避けているようなところがある。周りの人の、ロケットなんかできるわけがないとか、どうしてお金稼ぎをやらないのとかの雑音に惑わされることなく我が道を貫き通している。世間一般の解釈では 「非常識」 である。

著者は、幼少のころは学習障害、小学、中学、高校時代は先生に夢を否定され、やっと大学で出会った航空力学や流体力学などの学問は、小学生のころから趣味でやっていた紙飛行機やペーパークラフトと基本的に変わりはなかったと語る。しかし、その大学でも、先生に、この学校のレベルでは飛行機の仕事には就けないと言われる。しかし、著者は航空宇宙関連企業に就職するのである。

就職後、紆余曲折あったが、結局退職して北海道に戻る。父親の経営する会社を手伝うことになるのだが、会社といっても父親一人の町の修理屋さんのようなもの。車の配線の修理、バッテリーの取り替えなどの仕事を経て、リサイクルのパワーショベルにつけるマグネットを手がけるようになる。そして、現在に至るわけだが、この会社の経営方針 「稼働率を下げる なるべく売らない なるべくつくらない」 は驚きだ。

製造業で、アフターに掛かる手間と費用がバカにならないということで、壊れない製品を目指した。その結果が上記経営方針だというのだが、現にこの会社はこれで成り立っており、別会社の形態を取ってはいるが、宇宙開発にまで手を出している。大手競合が現れたらアウトだと思うのだが、これで競合は現れないのだという。その理由が、誰も壊れないものを作りたがらない、というのだからキツネに欺されたような話である。大手企業は、サービス部門を食わせるために壊れるものをつくらなければならないということで、結果オンリーワンになったという落ちが付く。

多くの人を食べさせることも価値あることなので、安易に本末転倒とは言えることではない。しかしながら、壊れないものをつくって尚且つ多くの人が食べられるにはどうすればいいか、著者はそのことを今の社会に問いかけているのではないだろうか。

 人生、最後に勝つのはどれだけ「やったか」です。どれだけ「もらったか」ではありません。
 だから、給料ごときで手加減をせずに、できるだけのことをすべきじゃないでしょうか。今、世界を取り囲んでいる不景気というもの、これを打破するためには、いかにして暇を生かして前例や規則のない分野に挑戦していくかということです。
 前例がない、規則がない世界、そこに刺さっていくことが、もしかしたらこの不況を打破する大切な考え方になるかもしれません。そのために、不景気が暇をつくってくれていると考えればいいんです。


著者の言葉だが、まだ今は多くの日本人に響くものではないと思う。短期的に見れば、経団連などが危惧する中国、韓国の台頭は問題かもしれないが、中長期的視野に立つ時、全く次元の異なることが世界的課題になってくると考えられる。その時、著者の言葉が生きてくるのではないか。そういう時期が必ずくると、じぶんは確信する。

著者が、ロケット開発に乗り出すことになったのには出会いがある。北海道大学大学院の永田晴紀教授である。著者はこの出会いが自分を変えたと言う。自分を変えたいのであれば、人に会いなさい、本を読みなさい、新しい知識が入った分だけ人生は変わる、と著者は言う。

著者の会社は、ロケットをつくり、実験施設をつくり、人工衛星をつくり、そして NASA 、JAXA ともお付き合いがある。そして、今後問題になる地球の周りにあるゴミ(人工衛星の残骸など)を片付けるロケットを開発しようとしている。しかし、この会社の生業は 「リサイクル用パワーショベルにつけるマグネットの開発・製造・販売」 なのである。

著者は、宇宙開発を通して自分を、従業員を、地域を育成している。そして、さらに  「アークプロジェクト」 と名付けた学校を計画する。子どもたちに、社会で起きている問題について考えてもらい、アイディアを出してもらう。それを会社がビジネスにつなげ、子どもたちが卒業するまで一緒に育て上げ、それを持たせて卒業させる。その中では算数も英語も必要になってくるだろうし、実践的な勉強を通して本当の人材育成ができる。著者は、そんなことを考えているのである。

 未来というものは、現在できることの先には絶対ありません。未来とは、未知なる進化の先にあるものです。子どもたちにあきらめ方さえ教えなければ、彼らは勝手に未来を切り開きます。どんなことでも、できる理由を考えればできるんです。できない理由を思いついたときは、それをひっくり返してください。それはできる理由になるんです。

どんな夢もかなう。ただ、そのためには仲間が必要であり、みんなで知恵を出し合えば、夢はかならずかなう。みんなで世の中を変えていきましょう。著者は、そう締めくくる。
 

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