楽天の挑戦

  • 2012.10.03 Wednesday
  • 10:45
昨年、「楽天」とユニクロを展開する「ファーストリテイリング」が 「英語の社内公用語化」 に踏み切ったとの報道があった。その時は 「・・・・・?」 という感じで話題作りが目的の報道向けメッセージかと思った。知識人の中から批判的なコメントもあがり、じぶんの第一印象もどちらかと言えば懐疑的なものだった。「日本の英語事情」 については以前から考えるところがあったからである。

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ところが、先月の終わり頃にふと覗いた駅前の書店で一冊の本が目に留まった。三木谷浩史著 『たかが英語!』 (amazon)である。その時はパラパラとめくって書棚に戻したのだが、その後も気になって結局2日後に購入した。

たかが英語著者 三木谷浩史氏 プルフィール

1965年神戸市生まれ。88年一橋大学卒業後、日本興業銀行に入行。93年ハーバード大学にてMBA取得。興銀を退職後、96年クリムゾングループを設立。97年2月エム・ディー・エム(現・楽天)設立、代表取締役就任。同年5月インターネット・ショッピングモール「楽天市場」を開設。2000年には日本証券業協会へ株式を店頭登録(ジャスダック上場)。04年にJリーグ・ヴィッセル神戸のオーナーに就任。同年、50年ぶりの新規球団(東北楽天ゴールデンイーグルス)誕生となるプロ野球に参入。11年より東京フィルハーモニー交響楽団理事長も務める。現在、楽天株式会社代表取締役会長兼社長。楽天グループは、eコマース、電子書籍、トラベル、銀行、証券、クレジットカード、電子マネー、ポータル&メディア、オンラインマーケティング、プロスポーツといった多岐にわたる分野でサービスを展開。eコマース分野では、アジア、欧州、北米、南米に進出。社員およびスタッフは全世界で1万人を超える。

What an exciting book !  (これで通じるのかな?)
実に刺激的な内容の本だった。95年のインターネットの本格的普及開始後、日本でも所謂 ITベンチャー企業が出始めた。個人的にも、訪れる 「ネット社会」 に想いを馳せ、若いIT企業に感心を持った時期もあった。それ故、「楽天」 についても97年の創立間もない頃から知っておりそのビジネスモデルに興味もあった。しかし、その後、日常生活にかまけて 「ネット社会」 に関する関心も薄れていった。

そんなことで、未だ 「楽天」 の利用者になったことがなく事業の詳細も知らない。楽天ゴールデンイーグルスのオーナーになった時は仙台球場がホームということで、宮城県出身として応援せねばと思い、今も影ながらエールを送っている。しかし、「楽天」 との縁は薄い。

しかし、『たかが英語!』 を読んで 「楽天」 という会社と三木谷社長に俄然興味が湧いてきた。三木谷社長は 「楽天」 をグローバル企業にするため 「英語の社内公用語化」 を打ち出した。知らぬ間に 「楽天」 は大きく成長していたのである。

創立時の苦労話は前に何かの本で読んだことがあるが、成長期の苦労話を知るのはこの本が初めてだ。グローバル企業を目指す IT企業は外国人の採用が必須で英語(ビジネス共通語)でのコミュニケートが不可欠になる。ならば、社内に英語に堪能な社員のチーム(部署)を作ろうという考えになりそうなものだが、楽天ゴールデンイーグルスの影響かどうか分からないが、三木谷社長は全員野球を目指した。

無謀にも、社員7000人を2年で英語が使えるように変えるという道を選択した。ここで重要なことは、社長が目指したのは ”語学としての英語” ではなく ”リンガ・フランカ(共通語:wikipedia) としての英語” である。英語を母語としない人同士の英語を 「グロービッシュ」(ジャン=ポール・ネリエール提唱) と言うそうだが、「楽天」 が社内公用語と考えたのは英語ではなく 「グロービッシュ」 である。ここが肝要。

つまり、”下手でいい、通じればいい” である。ネイティヴのようである必要はない。パソコンを習得するように英語を習得すること。名人芸は要らない。これを成し遂げるために 「英語の社内公用語化」 を決断した。準備に2年をかけ2012年7月1日に正式にスタートした。

社員の英語力を掌握するために TOEIC(トーイック:wikipedia) を採用した。社員はクラス別に目標値が設定され目標値達成が昇格の必要条件となった。楽天本社に近い語学教室は楽天社員でいっぱいになった。全社員のTOEIC平均が2012年5月で687.3点で161.1点のアップ、業務の英語化は2012年4月で平均79%に達したという。

言うまでもなく、ここまでの結果を出すためには、社長の ”必要時間 1000時間/人” 仮説を元に、
成功事例等の情報公開、事業部単位の競争、レッスンの仕事化など様々な支援策を実施している。三木谷社長の 「これは、かつて日本で行われことのない実験である」 という発言に氏の ”志” を感じる。さらに、時期を見てプロジェクトに関する情報を公開するとも言っている。

この「楽天」の取り組みに対しては、賛否両論−どちらかと言えば懐疑派の方が多いかもしれないが−あると思われるが、ここは ”好奇の目” でウオッチすべきものと思う。自社の進退をかけて壮大な実験をしてくれているわけで、他の企業は批難どころか感謝しなければならないだろう。

今の日本は 「コンプライアンス」 なんかに関わっている時ではないと思う。法令遵守、安全などは当然として、遙かその先を見据えなければならない。全ての企業が 「楽天」 と同じような環境にあるわけではないと思うが、その 「取組み方」 は参考になると思う。

企業の中期目標(3年から5年)として、今回の 「楽天」 の取組みは刮目すべきである。ただ、中長期目標(5年以上)となると、世界経済の ”ゲームの性格” そのものが変わってしまうことも考えられるので中期目標の変更を強いられるかもしれない。

同じく英語化を進めているユニクロは、”バングラデシュで製造して中国で売る” という戦略を考えているとの話を聞いたことがあるが、このようなゲーム・セオリーがいつまで成立しうるのか。最近の新興国の発展、市民意識の向上などを考えると、そんなに長く続かないのではないかと危惧する。

しかし、今回の 「楽天」 の 「英語の社内公用語化」 は、一企業のプロジェクトだけではなく日本全体が取組むべきミッションと考えても良い側面を持っていると思う。学校、企業の英語教育と関わるからである。リンガ・フランカ(共通語)としての英語の在り方はしばらく続くと考えるべきなのかもしれない。もちろん、本格的な ”語学としての英語” を必要とする人たちがいることは理解できるとして、大方の人はビジネスとか観光とかの限られたフェーズでの使い方である。

本書に注目すべき箇所がある。

 楽天が社内公用語にしようとしているのは、グロービッシュである。グロービッシュの提唱者であるジャン=ポール・ネリエールによると、グロービッシュを話すことは、英語による文化的な侵略から自分たちの言語や分化を守ることにもなるという。母語である日本語の習得も大事である。話す内容を持つことも大事である。同時に、今後否応なくさらされるであろうグローバル競争においては、ビジネスツールとしての英語力をもつこともやはり大事なのである。
 楽天の英語化は西欧化ではない。むしろ僕は、楽天の英語公用化を、日本文化や日本人の良い点を世界に広めるかっかけにしたいと思っている。


”極東の島国に住む日本語を話す民族” に存在価値がある。じぶんは、特に明快な根拠はないのだが、そう思っている。経済的理由だけで、便利だからというだけで言語が統一されるべきではないと思っているのである。それ故に、上の文章はじぶんにとって 「逆転の発想」 となった。日本語、日本の文化を守るために 「グロービッシュ」 を身につける。考えてみる価値があるのではないか。

幼少からの外国語教育は ”百害あって一利なし” との考えもあり、教育、言語学、心理学、脳科学などの専門家の意見も併せて検討されるべきではあるが、今回 「楽天」 が投じた一石の波紋が企業、行政関係者の間にあまねく拡がることを願っている。

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